東京古典会会員コラム:大屋書房 纐纈久里


わが家の妖怪たち
 
父のもとで修行を始めたのはおよそ十五年前。その頃いちばん気になったのは、「和本屋は敷居が高い」「古書店は入りにくい」というお客さまの声でした。確かにそんな面もないとはいえません。けれども古書店に行けば、誰でも昔の本を実際に手にとって見ることができます。古い文化と出会える絶好の場所です。ことに和本は江戸時代の生活や文化、人々の息吹をじかに感じることができる絶好のツールなのです。
どうしたら気軽に足を運んでいただけるのだろう、少しでも多くの方々に和本の面白さ、素晴らしさを知ってもらうには何をしたらよいだろうか? そんなことが当時の、いや今でも、私にとって大きなテーマとなりました。
奥深い古書、和本の世界をさまよっているうちに、私自身は「妖怪」の絵本や絵巻物、浮世絵に出会いました。身近で親しみやすい妖怪たち、大好きです。ところがどんなコレクションでもそうでしょうが、特定の分野に肩入れしてしまうと、蒐集は難しくなります。ことに妖怪に関する品々といったら、もともと大半が消耗品的な扱いをされてきたために、後々の世まで残るのは稀。市場にはなかなか出てきませんし、強力なライバルも多い。ため息がでてきます。決意はしたものの蒐集は思うにまかせず、あしかけ十年かかってようやく、『妖怪カタログ』を刊行することができました。
妖怪に特化した古書目録という珍しさもあって、嬉しいことにこの『妖怪カタログ』はさまざまなメディアにとりあげていただき、おかげで徐々にですが、新しい層のお客様がいらっしゃるようになりました。
また近年では小学生の社会科見学や、大学生の校外実習なども受け入れ、実際に和本を見てもらう、触ってもらうという取り組みもしています。みなさん興味津々、わが家に居すわる妖怪たちに出会い、目を輝かせている様子をみていると、おのずとこちらも嬉しくなり、将来が楽しみにもなってきます。
そんなこんな、今後も和本の魅力、面白さを、少しでも多くの人に知っていただけるように、微力ですが発信し続けたいと願っています。

大屋書房 纐纈久里